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乗馬ブーツの修理again!

乗馬ブーツの修理again!

こんにちは!
山の手緋色舘の西野です。

5~6月はなぜか乗馬ブーツの修理ご依頼が多いですね。
今年も例外にもれず春先から構えていた甲斐がありました。(笑

さて、例年一回は取り上げているこの乗馬靴ですが、私はこれを「靴修理の基本」と思っております。
ギアとしての靴は本来足を守るためのもの。
一切のムダな装飾はなく、機能美としてそこにあるブーツの修理(整備)に必要なこと。
常にそれは何なのかということを念頭において作業をしています。

乗馬ブーツの修理again!

まずは甲の革ギレです。
乗馬のライディングスタイルは前傾姿勢なので、甲から足首の部分に非常に負荷がかかります。

乗馬ブーツの修理again!)

外羽根を取り外して切れ目を革で塞ぎ、ステッチを掛けます。

乗馬ブーツの修理again!

羽根をもとに戻して縫い直します。
これで完成。あてる革はまわりを漉くことで厚みを整えて柔軟性を確保します。

乗馬ブーツの修理again!

修理ご依頼時にお客様より頂いた画像。

改めて乗馬とはいかに過酷なスポーツなのかと思ってしまいました。
乗馬といっても単に馬にまたがるだけでなく、トライアスロンやハードルなどといった競技もありますし、
これは傷んだ部分を適切にオーバーホール処理する必要があります。
この状態で使用していると思わぬ怪我の原因になるかもしれません。

乗馬ブーツの修理again!

ソールを取り外したところ。
本来ソールは底縫いがかけてあるものですが、これは全ての糸と釘を抜いてアッパーのみになった底部分です。

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これにソールを付けたところ。vibram #2055ソールです。
余計な釘は使わずに360度底縫いを掛けます。
製造時には「タックス」という釘でアッパーを止めてありますが、それもすべて抜いて糸だけで構築します。
ソール交換時にその釘を置いておくと錆びて革に悪影響が出る可能性を考慮しております。
また、足の裏方向に釘が刺さっている状態というのも、劣化で浮いてきた場合の危険→安全性
という意味では出来るだけ排除しておく必要があります。

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甲の内側のベロ(シュータン)革→内腿の革当て→トップラインとヒールの形成でオーバーホールの出来上がり。
今回の修理では内腿革は1.4mm厚の上質なクロムなめし革を使用しています。

乗馬ブーツの修理again!
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さて、もうひとつ乗馬ブーツのオーバーホールを交えながらの修理ご紹介。

ファスナーの故障とそのカバーである細革、スライダーカバー、ヒール打ち直しなどなど。

乗馬ブーツの修理again!
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ファスナーに沿って三本ステッチが走っているのが見えるかと思います。
細かい目です。これにはちゃんと意味があるんですね。
革は力のかかる部分は伸びていきます。しかしファスナーのようなパーツは伸縮しませんので必然筒の形が変わってきます。
メンテナンス時にいい加減な装着をするとブーツ製作時の原型が壊れます。

乗馬ブーツの修理again!

「ブーツメーカー布施」の乗馬ブーツ。
国産の名門ブーツメーカーですが、ファスナーの交換がブーツにとってストレスなく出来るよう最初から設計されています。
これは乗馬ブーツにとってはファスナーが消耗品であり、交換することを前提として製作されているように思えます。
年間何度かこのメーカー製ブーツがやってきますが、私達修理人にとっては、
まるで定期の「実力テスト」のような心地で修理にあたらなければならない気持ちになるブーツです。(笑
ファスナーの取り外しは簡単ですが、ライニングとファスナーを同時に縫い付けるなど
シンプルなので誤魔化しのまったく利かない構造になっています。

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修理後のバックスタイル
ピンと立った状態と、筒のファスナーカット線であるなめらかなカーブに沿った形にファスナーを取り付けます。

乗馬ブーツの修理again!

こちらも修理後のバックスタイル
この後ろ姿の直立スタイルがガタガタだとファスナーの引き味も悪くなり、ひいては長持ち致しません。
ヒールカップの曲線と足首のくびれををちゃんと再現していく必要があるのです。

乗馬ブーツの修理again!

使用するファスナーはYKK製NO.8というものです。
時々NO.10というひとつ大きいファスナーを取り付けて修理したブーツを見ます。
ですが、緋色舘ではNO.8以外は使用しません。

上記したようにブーツ本体に対してファスナーは消耗品です。
装着も縫いも細かくすることで主に負担のかかる足首での革の柔軟性を発揮させ、
いわゆる乗馬ブーツに必要な「コシ」を形作っています。
NO.8は製造時に想定された木型(ラスト)に最適な大きさとなっています。

番手が大きくなれば強くはなるかもしれないですが・・・
「大は小を兼ねる」的な考え方はこの場合は少し違うでしょうね。

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次にくるぶし部分のライニングの補強です。

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乗馬ブーツの足首はタイトに締まっていますので、くるぶし部分の内張りが傷みがちです。
前回ビルケンシュトックのライナーでご紹介したのと同じ革素材を用いて修理します。
これはファスナー交換時にしか出来ない修理になりますので、かならずチェックしている部分です。

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ブーツの履き口
トップラインの巻き込み部分 修理

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スライダーカバー(ブーツ使用時にファスナーが下がらないように固定する革)
パーツ作り直し。
この印象的な形はカバロ東京のブーツです。

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ヒール打ち直し修理です。
乗馬ブーツも本格的なものほど革積みのヒールとなっています。
減りすぎた場合こちらもベースを打ち直して修理するのは紳士靴と同じですね。

乗馬ブーツは基本的に軍隊などで使用される靴と構造は同じです。(命を守るという意味でも)
なので基本性能の高いものほど修理にはソレを台無しにしないような仕事が要求されます。
そういう意味でも乗馬ブーツの修理は靴修理の基本だと私は考えております。

では本日は以上です。
緋色舘の乗馬ブーツの修理again!でした!

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